~本来「余計な作業」などではないものです~
投稿:舩生好幸(Primary-f代表、JRCA登録QMS審査員補)2022.6.9
(画像出典:写真AC:https://www.photo-ac.com/)
〇思い出話~私の会社員時代から
私がIT企業のSE職だったころ、30代半ばに開発部門から品質保証部門に配属され、QMS事務局としての業務に携わることになりました。この時、
「自分は、出世コースから外れたのかも。」
と、後ろ向きな気持ちになることもありました。
システム開発や維持を主要業務とするIT企業で、花形はプロジェクトマネジャー(PM)やプロジェクトリーダー(PL)など、開発案件を取り仕切る職種です。
品質保証部門は、もちろん重要な任務を担っている部署ですが、開発の現場から外された当初、ある意味左遷に近い感覚も持ちました。
しかし一方で、PMやPLは重責であり激務です。案件が難航し、メンタルや身体の健康を損ねるPMやPLの方もたびたび見かけました。
それを見て、心身を壊してまで重責を担おうという覚悟を持てなかった私は、当時の担当業務に「これでちょうどいいのかも」と思い直すことも多かったです。
〇簡潔に言ってISO9001規格に基づくQMSとは?
やや脱線気味の始まりですが、会社員時代を思い出しつつ、その延長でいつの間にか、「ISO9001規格に基づく品質マネジメントシステム(QMS)とは簡潔にいえば一体何だろう」と考えておりました。
「ISO9001QMSとは、製品やサービスの品質をマネジメントするための仕組みだが、その内容の充実を踏まえれば、今や組織の経営の仕組みと考えて差し支えないもの」
というのが只今の私の捉え方です。
それを踏まえて、それぞれの企業の中でQMSの業務に携わる皆様には、たとえ社歴の浅い一般社員であっても、
「自分は今、組織(会社)の経営に携わっているんだ。」
と、経営者になった気持ちで(それが難しい場合は経営者の視点・観点を目指して)、取り組んでいただくのがよい、そう思います。
〇その作業は本当に「余計な作業」?
ISO9001の認証を受けている企業・組織であれば、以下のような作業が必ず発生します。
・今期の品質方針に基づき、自組織の品質目標を定める。そして、中間や期末には、目標に基づき実績を評価する。
・QMS委員会やマネジメントレビューなど、QMS関連の会議体に参加・関与する。会議の前には情報収集や資料提出等の作業、会議後には組織内への結果の周知等の作業を行う。
※マネジメントレビュー:トップマネジメント(=経営者など)が、組織に構築されたQMSの実施結果を、定期的に確認し必要に応じた処置の指示を出す機会です。
通常、経営会議と同水準の会議体として実施されたり、経営会議の中で実施されることが多いと思われます。
・定期的(年1回など)に行われる内部監査や外部審査への準備等対応を行う。あるいは内部監査員として他の部署の内部監査(=点検)を行う。
これらの作業は、企業の現業部門にとって「本業ではない余計な作業」と捉えられる可能性があり、そのため「やらされ感」が漂い、QMS事務局からの要求を機械的にこなせばよい、という雰囲気にもなりかねないです。
しかし、「ISO9001QMSは経営の仕組み」、さらには「お客様を含めた利害関係者のニーズや期待に応えるための仕組み」、そう捉えるなら、これらは本業に直結する取り組みであり、余計な作業などではないことが分かると思います。
〇その一方で、「QMSは看板のみ」の問題
たた、ここで問題なのは、
「ISO9001は『看板』=認証取得・維持だけが重要で、それだけの仕組みに閉じている。企業の経営の仕組み=マネジメントシステム、は別に構築されている」状況です。
これはむしろ、ISO9001認証取得歴の長い企業などで多い状況かもしれません。
現在の2015年版ISO9001規格では、構築するQMSと組織の経営の仕組みが整合することを前提としている、そう捉えてよいと思います。
認証取得のためだけに、組織の経営と関係性が乏しいQMSを構築・維持するとしたら不合理、二度手間です。
この件については別途、稿を改めて書きたいと思いますが、
「”看板”のために二重にマネジメントシステムを構築する」等の課題・問題点については、現場からでも、あきらめず、意見や改善を求める声を上げていただくことは有意義なことになると思います。
社内全体を取りまとめる組織の側は、1度や2度の意見や改善要求でアクションを起こせないのかもしれませんが、
機会をとらえて前向きな意見や改善を求める声を上げ続けていただくことは、中長期的に組織のマネジメントシステムの継続的改善を促すことになります。
(JRCA登録QMS審査員補)
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